分かりやすい経済解説ーサンケイ新聞より

 一連の金融危機そしてその対策についてのコメントで分かりやすいのがサンケイ新聞にありました、これを少し縮小編集してみました。「素人のための金融危機とその対策」レクチャー。

「100年に1度の危機」とはどういう意味だろうか。なぜ米国発の金融危機なのに、日本は昨年10~12月期に一挙に先進国では最悪の2けたマイナス経済成長に陥ったのだろうか。この基本的な疑問を解く鍵は「マネー」にある。
 米国は無限大とも言える速度で新種の「マネー」を膨らませて、突如消滅させた。これが金融危機である。創造されたマネーの規模は恐るべきもので、2007年末時点で米国と欧州の国内総生産(GDP)合計額を上回っていた。ところが08年9月中旬の危機勃発を機に、この巨額のマネーの大半が実は使い物にならないことがばれてしまった。これがバブル崩壊である。
 崩壊は崩壊を呼ぶ。マネーはモノや労働サービス、株式など資産を買う手段なのだから、なくなると、工場は閉鎖され、失業者が路頭に迷い、株式や不動産相場も暴落するという悪循環が発生する。こんなマネーが短期間でこれほどの規模で生み出されたことは資本主義市場かつてなかったことなのだから、100年に一度どころか、人類が初めて直面する巨大危機である。
 そもそもマネーとは一体何だろうか。おカネ、つまり財布の中のお札のことをすぐに思い浮かべる。だが、金や銀との交換が保証されていた金銀本位制の時代と違って、現代のお札はモノや資産を買うことが国によって保証された紙切れである。そういう意味では、株式や国債などの証券もすぐに現金に換えられる限りはマネーの範疇(はんちゅう)に入る。企業が株式を、国は国債を発行することは、日銀がお札を刷るのと同じとみてよい。証券類がお札と違うのは、それ自体の値打ちが市場相場として変動するからだ。
 米国はこの証券の特性を最大限利用しようとし、現金を稼ぐ資産を証券に加工した。この資産とは、金融機関による各種のローン、借り手の消費者にとっては借金である。最も規模が大きく、数もおびただしいのは住宅ローンである。住宅自体は担保になる。返済能力に疑問が付く低所得者でも住宅価格が上昇していれば、貸し手も安心だ。
 そこで住宅ローンは元利の支払いを受ける証券に置き換えられる。だが、ろくに働かないXさん向けのローンをそのまま証券にしても焦げ付いてしまう恐れがある。そこで金融機関は考えた。不特定多数のローンを切り刻み、混ぜ合わせて再合成してさまざまな構成要素から鳴る証券にしてしまえば、Xさん関連部分は薄まり、リスクがほとんどなくなる。何よりも全般的に住宅ブームで担保価値が上がっているという前提がある限り、証券価値も上昇する。
 それでもリスクが消えるわけではないから、今度はこのリスクを別の金融商品にして売ればさらにもうかる。ローン証券を発行して他の金融機関や投資ファンド、財テク企業からカネを集める金融機関が経営破綻したら証券はたちまち紙くずになってしまう。そうなら証券が焦げ付いたら、発行機関に代わって元利払いに応じる代わり、保険料をもらう。この保険商品は金融派生商品(デリバティブ)の一種「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」と呼ばれる。
 この仕組みをみて証券化商品の買い手の投資ファンドや金融機関は安心した。投資規模を借金で膨らませばもっともうかる。低金利のドルばかりでなく、海外、特にゼロ金利の日本から円を調達してドルに転換し自己資金の何十倍も投資すれば投資収益率は何十倍になることも可能だと。この手法は「レバレッジ(てこ)」と呼ばれる錬金術だ。一連の複雑で高度な作業は情報通信技術(IT)により、金融工学のソフトを使えばパソコン上で簡単にこなせるし、情報を電子空間で帳簿間でやりとするだけで取引は成立する。
 欧州をはじめ、世界中の金融機関や投資家がこぞってこの証券化商品を買うので、米国には世界の余剰資金が集まる。原資を確保したのだから、米国消費者はいくらでも借金してモノを買えるし、投資ファンドや金融機関はあり余る資金を新興国の株式や不動産に投資して運用する。かくして、中国は輸出主導で世界の工場として2けたの高度成長を続け、日本も自動車や家電など輸出産業が生産規模を拡大してきた。
 証券化商品の前提だった住宅相場上昇が止まり、下落し始めた。その途端、証券化商品の価値も下がる。株式や不動産なら下落しても企業やビルなどという実体があるから、公正な相場が存在する。だから売って損失処理できる。
 ところが証券化商品は電子空間の創造の産物だから、実体がない。わかることは、腐った部分が最初は小さくても住宅価格下落が進むにつれてがん細胞のごとく増殖し広がっているが、どの部位なのかはわからない。従って、評価できない、切除もできない。投げ売るしかない。この結果、証券化商品とそれに関連する金融商品やローンは際限なく価値が失われていく悪循環にはまった。こうして巨大な仮想現実の購買力が消滅し、金融市場ばかりでなく世界の工場までも飲み込む「巨大津波」が発生した。
 バブル崩壊後も従来のバブルとは決定的に違う。問題金融商品の毀損(きそん)度合いがわからないから、清算処理が困難なことだ。日本のバブル崩壊は株や不動産で、金融機関と借り手の企業が時価評価して不良資産を処分すればよかった。10年かかったが、出口は見えていた。米金融バブル崩壊は巨大な迷宮で起きている。
 ではどうすればよいのだろうか。消えた巨大なマネーをつくる基盤になった米国の住宅相場の復調を待つしかないが、需要の回復に何年かかるかわからない。オバマ政権は大規模な財政支出による8000億ドル級の景気刺激策を打ち出したが、何しろ消えた購買力は少なくても数兆ドル、日を追うごとに増えている。
 結局、膨大なマネーが消滅したことによる危機なのだから、解決は新たにマネーをつくるしかない。米連邦準備制度理事会(FRB)がこの半年間で1兆ドル発行した背景だ。それでも足りないが、ドルは暴落の危機があって発行に限度がある。ならば信用力のある円の役割は重い。日銀が嫌がるなら、政府が日銀券に代わる政府紙幣を大量発行するときだ。
世界はいま、「100年に1度」の経済危機を迎えている。生産や雇用、所得や消費などすべてがら旋状に下降するデフレスパイラルの恐怖が日を追うごとに募る。定額給付金などちまちました景気対策では日本を覆う不安を解消できるはずがない。いまこそ発想と政策の大転換が求められている。そこで(1)政府紙幣の発行(2)相続税免除条件付き無利子国債の発行(3)オバマ次期米政権から円建て米国債の引き受け-という大胆な政策を提案したい。100年に1度の危機には100年に1度の対策を打ち出し、危機を好機に変える戦略が問われている。
 日銀券とは別に、政府がお札を刷る政府紙幣とは耳慣れないかもしれないが、政府(財務省)がよく発行する記念硬貨の代わりと思えばよい。記念金貨とは違い、発行費用は紙と印刷代で済むから、政府は財政赤字を増やさずに巨額の発行益を財源にすることができる。
 まるで政府が「打ち出の小づち」を振るような話だが、きちんとした経済理論的な根拠もある。物価が下がり続けるデフレスパイラルとは、モノやヒトの労働の量がカネに比べて過剰なのだから、カネの供給量を増やせばよい。
 米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は2002年のFRB理事時代に「デフレのときはお札を大量に刷ってヘリコプターからばらまけばよい」とぶったことがある。この「ヘリコプター・マネー」論は、1930年代の世界大恐慌の教訓を徹底的に研究したシカゴ大学の故フリードマン教授が提唱し、学派を超えて何人かの米ノーベル経済学賞受賞者が賛同している。FRBは今回の金融危機に際し、不良金融資産までも買い上げ、ドル資金を無制限に供給する異例の政策に踏み切った。
 日本でも日銀が日銀券発行など市場に資金を潤沢に供給する「量的緩和」などで大々的な円資金供給に踏み切ればよいが、平時の感覚から抜け出られない日銀内部には「円の信任が損なわれる」との反対論も根強く、機動的な対応ができていない。
 日銀券に比べ、政府紙幣には政治主導という利点がある。政策目的に応じて政府紙幣による財源を柔軟に充当できる。給付金としてばらまくことで個人消費を喚起するのも一案だが、失業者対策などの社会保障財源に回す、さらには民間の新たな地球環境プロジェクトを補助し、日本版「グリーン・ニューディール」を推進するのも手だろう。
 もちろん、政府紙幣の発行額には限度もある。高橋洋一東洋大学教授は、その発行適正規模を「25兆円」とみている。
 一方、需要を喚起するためには、なかなか消費に回らない民間の金融資産を動員することも必要だ。このために国債を発行するわけだが、国内総生産(GDP)の約1・5倍に及ぶ政府の累積赤字を増やすわけにはいかない。そこで有識者の間で浮上している案が、相続税免除条件付き無利子国債である。
 日本の個人金融資産は2007年末で約1500兆円、このうち現預金は約半分、780兆円にも達している。個人は急落する株式を嫌って、金利がなくてもたんすに現金を留め置いたり、超低金利の預金で我慢したりしている。
 これらの預金者のうち、相続税負担に悩んでいる高齢者らに無利子の国債を買ってもらい、その代わりに相続税を免除するのだ。この財源を政府紙幣発行財源と合わせると、政府は大規模な経済総合戦略を実行できるようになる。
 政府の相続税収入は年間で1兆2000億円。景気が浮揚すれば法人税収などが伸びる。この相続税の減収を補って余りあるだけの税収増に結びつくような景気刺激策を考案する必要もあるだろう。
 米国の金融バブル崩壊の結末は結局、グローバルなデフレ恐慌であり、2009年にはさらに進行する可能性が高い。米国で発行され、世界にばらまかれた巨額の金融商品は、借金しては消費する米消費者の財源になっていた。それが消滅したのだから、世界の実体経済に大津波となって襲いかかる。
 中国ではすでに出稼ぎの農民など2000万人以上の労働者が輸出産業での職を失いつつあるし、日本でも最優良企業のトヨタ自動車までも営業赤字に転落、自動車産業を中心に3月までに8万5000人の非正規雇用者が失職する見通しだ。昨年1年間では米国では258万人、欧州でも110万人が失業した。
 地球上のカネの流れが凍りつき、企業はカネを使えない、消費者はカネを手放さない。物価は下がって生産も消費も縮小し、所得も雇用も消え去る。
 今回のデフレはこのように金融現象に始まり、金融の世界が病状をさらに悪化させるのだから、財政と金融の両面でかつてない次元の政策に切り替えるのは当然だ。
 米国はバーナンキFRB議長、さらにオバマ次期政権でも大統領経済諮問委員会(CEA)委員長になるローマー・カリフォルニア大学教授がいずれも大恐慌の権威であり、デフレ対策を意識した政策を金融と財政の両面で打ち出してくる。日本もこれに呼応して、従来の発想を大転換し、米国と足並みをそろえるべきだろう。
 オバマ氏は最近のインタビューで、財政赤字にこだわらず財政支出を増やすと言明している。その場合、米国の赤字国債を含む国債発行額は例年の4倍の2兆ドルに達する見通しで、市場ではドルや米国債の先行き不安が日々高まっている。ドルが暴落したり、米国債相場が急落したりするようになると、米国の金利は急騰し、世界経済はデフレ不況下での高金利という最悪の事態にまでこじれにこじれる。
 専門家の中には「日本は保有する米国債を放棄すべきだ」(三國事務所の三國陽夫代表取締役)との意見もある。貯蓄大国・日本は内向きにばかりならず、米国の経済再生も考慮に入れる必要があるからだ。三國氏は、日本の米国債放棄を「日本版マーシャル・プラン」になぞらえる。約1兆ドルもの債権放棄は国内世論からして受け入れがたいが、米経済の回復がなければ、日本や世界経済の復活は遠い。
 そこで政府紙幣発行と相続税免除条件付き無利子国債の大量発行と並んで、円建て米国債の引き受けも視野に入ってくる。
 日本が米国債を引き受けようにも、ドルが急落不安を抱えている限り、日本の金融機関や機関投資家、それに個人も米国債の購入をためらう。為替リスク不安が強いためだ。その点、円建て米国債なら為替リスクを米国側が負う。
 米国債の利回りは、円建てでも、日本国債よりも高く設定される可能性があり、日本の投資家は米国債を選ぶ可能性がある。その場合、日本国債の売れ行きに響くという恐れを財務官僚は抱くが、だからこそ相続税対策など、新たな魅力を日本国債に付与する必要があるのだ。
 円建て米国債は世界の投資家にも買われる。日本企業と取引する世界の企業は決済通貨として円資産を増やせる。その結果、円の国際化が促進される効果もあるだろう。
 こうした一連の財政金融面での思い切った政策転換は、厳しい時代だからこそ可能で、早急に議論に入るべきだ。米国や欧州、それに中国とも政策調整しながら世界的なデフレ脱却に向け、今こそ日本が主導性を発揮すべきだ。
(サンケイ新聞の記事を編集したものです)

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