値下げは得なのか損なのか?

 この仕入れ価格上昇時期に「値下げ」ですか? とんでもない、と皆さんは言う。ただ以下のコラムを読んで、どう思われるでしょうか?

プレジデントの09年5月号より
居酒屋チェーン大手のワタミが生ビールの値下げに踏み切ったのは、ことし2月。「和民」ではサントリーのモルツ生の中ジョッキを63円下げて418円とした。和民では、昨年3月、中ジョッキを40円値上げしているが、今回の値下げは、それを上回る額となっている。また、「坐・和民」でも、サントリーのザ・プレミアム・モルツの中ジョッキを105円下げて523円とし、サワー類も105円下げて418円とした。
店舗の売り上げの約20%を占める主力商品の生ビールを値下げする第一の目的は、客を呼び戻すことであろう。ワタミグループ全店の月次ごとの総来店客数は、2008年9月から前年同月を下回り続けている。
外食産業の動向に詳しい、いちよし経済研究所第一企業調査室長の鮫島誠一郎氏は、「景気が急速に悪化しているので、価格を下げて来店頻度を上げることがポイント。一定の集客効果はあるでしょう」と見ている。
ワタミの外食事業部門ワタミフードサービスの社長で、この6月にワタミの社長に就任する桑原豊氏も、「お客様は価格に敏感なので、早く手を打っておくことが大切だと考えています」として、客数の増加が狙いであると認める。一方、「ただし、客数の回復には半年前後の時間がかかると見ています」と話す。
「居酒屋の価格帯でいちばんわかりやすいのがビール。ガソリンスタンドのガソリンと同じです。私どもは、料理は安いという評価はお客様からいただいています。逆にいえば飲み物、つまりビールは高いということにもなる。ワタミの価格というものをはっきり表現したかった」
生ビールの値下げ分のワタミの負担額を、桑原氏は「年間12億円」とする。鮫島氏は「ワタミには規模のバイイング・パワーがあるので、ビールの仕入れ値もかなり安くなっているのではないか」と推察する。他の居酒屋チェーンに追随する動きがない理由のひとつともいえる。
生ビールを値下げする一方で、料理メニューを全面的に改めた。和民と坐・和民で異なっていたメニューを統一し、品目数を85から74に絞り込んで食材も見直しし、品質を下げずにコストダウンを図ったという。国内で約600店を展開するワタミのスケールメリットを発揮させながら、減収であっても増益を堅持できる経営体質を目指したと見て取れる。74品目のうち、改定前と同じ料理は4品目であり、70品目は装いを変えたり、ボリュームを増やしたりしている。たとえば、串刺しの焼き鳥は、サイコロステーキのような鉄板焼きスタイルに変えた。
「生の焼き鳥の原価のうち、鶏肉とねぎの食材費は半分。残りの半分は、串のコストと、具を串に通す人件費なんです。串から外して召し上がるお客様が多く、串刺しになっていなくてもいいのではないかと考えました。熱い鉄板に載せることで冷めにくくなっています」
桑原氏が紹介する「若鶏ねぎ塩だれ」は、串焼きよりも増量しつつ、105円値上げした。
生ビールを値下げしつつ料理メニューを全面的に改定してから1カ月半がたった時点で、客1人あたりの平均オーダー数は0.3皿増えた。他方、客単価は約20円の減少となった。桑原氏は、「ほぼ想定していたとおり」と満足げに微笑む。生ビールが最も売れる季節に先駆けた値下げを客がどう評価するか。

 そういえば、昨日はサイゼリアの特集を見ました。 サイゼリヤ? 小林亜星の「パッとサイゼリア」ではありません。イタリアンの格安レストランですが、業績は絶好調です。「そんなの知らない」という方は以下を読んでください。

プレジデント 7月号より
グラスワインが100円、サラダやパスタは200円台からという超低価格で売り上げを伸ばしているレストランチェーンが、サイゼリヤだ。なにせ2人で飲んでたっぷり食べても3000円前後。それに契約農家から仕入れた採れたて野菜、本場イタリアからの食材直輸入など、味や品質にも力を入れているから、そこそこおいしい。

なぜ、これほどまでの低価格でサービスが提供できるのだろう。まずは本職の会計士としての視点で、サイゼリヤの投資の効率性からチェックしてみよう。
事業投資には在庫投資と設備投資があり、その効率性は前者だと棚卸資産回転日数、後者は固定資産回転日数で測ることができる。棚卸資産は生産や販売のために保有している資産で、原材料や半製品、仕掛品などがある。一方の固定資産は長期にわたって事業活動に使用する資産で、土地や機械などが挙げられる。いずれも回転日数が短いほど効率よく売り上げにつながっていることを示す。
実際、棚卸資産回転日数の全産業平均40日に対してサイゼリヤは14日、固定資産回転日数は同200日に対して179日で、いずれも平均をかなり下回っている。それだけ事業投資を効率的に行っているからこそ、営業利益率(営業利益÷売上高)8.8%の高収益体質をキープできているのだ。自己資本比率(純資産÷総資産)が85%と極めて高水準なのも、高い投資効率の賜物といえよう。
しかし、事業投資の効率アップも確かに必要なのだが、最も重要で、かつ最も難しいものがある。それは人件費の効率見直しだ。「そんなことはないんじゃないか」と疑問に思った読者のあなた、ぜひ別図にある問題に挑戦してもらいたい。
これは「動作研究」を考えるための設問である。正解、つまり会社の利益に貢献している行動=付加価値動作は(3)と(4)だ。(1)の移動は「必要動作」で直接利益は生んでいない。(2)は書類の管理が行き届いていないために生じるもので、仕事の効率を下げる「遅延動作」でしかない。そのほか、倒れかけた書類の山を支えるような「無価値動作」もある。
実はそうした遅延動作や無価値動作にもコストが発生している。年収600万円のビジネスマンが、1日8時間、年間250日働いた場合、「600万円÷(250日×8時間)」で、時給は3000円と計算される。さらに、それを60で割ると、分給が50円とわかる。つまり、たった1分の無価値動作が50円ものコストの無駄遣いにつながるのだ。多くの人はここまで意識していない。だからこそ、必要動作を極力減らしつつ、無価値動作ゼロを目指す工夫が大切なのだ。
翻ってサイゼリヤはどうか。私がオーダーしてから2分とかからず生ビールとサラダが目の前に並び、その二分後には前菜のプロシュートがサーブされた。店員は厨房に戻る途中に別のテーブルでオーダーをとり、さらに別のテーブルから食器を下げていた。そのとき広い店内には店員二人だけだったが、どのテーブルも片付けられ、待ちくたびれて不機嫌そうな客は皆無だった。
見事なまでのスピーディーなオペレーションは、無価値動作の排除と、必要動作の削減を徹底した結果だろう。もちろん厨房内の動きも迅速であり、そのための作業効率が計算しつくされている。その象徴が、あらかじめカットされた野菜が各店舗にデリバリーされ、厨房には包丁がないことである。そうやって温かい料理が温かいうちに供されることで、客の満足度は高まり、ひいてはリピーター客の獲得にもつながって、先に見たような高収益に結実しているのだ。

 ここには書かれていませんが、ここの社長が「7割引にしなさい、3割引や5割引ではダメ」と語っています。7割引にして美味しいものを出せば、毎日行列になるそうです。そうすると近くにもう1店舗出さないといけないと思うようになり、それが今の全国700店舗になったそうです。これはやはり常識破りでしかありません。Trader's Joeで売れ筋のワインは2ドル台です。これがそこそこ飲めるわけです。だからお客さんはケース買いします。これが安かろう悪かろうでは売れないですね。そこそこの味をキープしているところが味噌だと思います。やっぱ、お客さんを刺激しないといけない。うちは11月2日に「寿司の日 お客様感謝デー」を開催します。これは4年前から始めたイベントですが、日本では11月1日が寿司の日にあたり、「何かアメリカでもやれば販促になる」ということで始めたのがきっかけです。確か最初の都市は3割引をしました。それが忙し過ぎたので、翌年は2割引にしました。昨年も確か2割引きでしたが、今年は3割引にします。景気悪いですからね、何かやらないといけないし、Macy'sがOne Day Saleをやるなら、レストランがやってもいいじゃないかというのが私の発想です。 今年は支払った分の30%に対してクーポンを配布する作戦です。たとえば100ドル使えば30ドルのクーポンを渡します。 実質30%割引と同じことになります。そうすれば、このクーポンを使うためにお客さんは戻ってきます。そしておそらくこのクーポンの半分は使われないと思います。まず、失くす可能性があります。次に期限が来て使えなくなります。そして実際にリピートする人は半分程度だと推測しています。 ということは30%割引しても実際には15%割引で済むといくことになりませんか?明日、この告知を行います、昨年の実績が165人でしたから、同程度で御の字ですね。

 実はその前々週の21日には酒の試飲会をやりますが、すでに20名が予約しています。これも過去最高の人数です。昨年は1人40ドルでしたが、今年は30ドルです。30ドルで5種類の酒が飲めて5品のアペタイザーが付きます。こんな旨い話はないですよ、だから20人集まったのだと思います。これが仮に40ドルであれば10人程度だったかも知れません。それだけ消費者は価格に対して敏感になっているということです。
 客観的に考えて、この10ドルの差は実に大きいと思います。40ドルならなんとなく高い気がしますが、30ドルならお得感があり安い気がしませんか?
 実はここ2ヶ月でメニューの値下げを断行しています。お客さんへの配慮ですね。この不景気なときに、お金は使いたくないでしょう? だから値下げするんです。その値下げ分は経営努力でしかありません。値下げして売り上げが減っても収益を確保する仕組みを作ることが大事ですね。

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